
五十肩(凍結肩)になった。
肩が上がらない。後ろに手が届かない。夜中に痛みで目が覚める。
「そのうち治るよ」と言われた。
確かに治ります。
でも「ただ待つ」のは間違いです。
治り方と期間が全然違ってきます。
米国理学療法士協会(APTA)整形外科部門が発表した
臨床実践ガイドライン。
今回はこの世界標準の指針を解説します。
五十肩の「本当の姿」
五十肩の正式名称は「癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)」。
何が起きているか?
肩関節を包む関節包(袋)が、炎症を経て線維化・収縮する。
これだけです。
腱が切れているわけでも、骨に異常があるわけでもない。
袋が硬く縮んでいる。
だから動かないのです。
4つのステージを知らないと治療が逆効果になる
五十肩には明確な4段階があります。
ステージを知らずに治療すると悪化します。
第1期:疼痛期(0〜3ヶ月)
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動かした時の鋭い痛み
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安静時のだるい痛み
-
夜間痛・睡眠障害
-
可動域はほぼ正常かわずかな制限のみ
ここが重要。
この時期は腱板腱症(インピンジメント)と症状が酷似しています。
誤診される可能性が最も高いステージ。
第2期:凍結進行期(3〜9ヶ月)
-
全方向への可動域制限が急速に進行
-
炎症が最も激しい時期(滑膜炎・血管新生が起きている)
-
疼痛も可動域制限も最悪の状態に向かっている
この時期に無理な積極的ストレッチをすると悪化します。
第3期:凍結期(9〜15ヶ月)
-
疼痛 + 可動域制限の双方が極大
-
関節内は瘢痕組織が形成されている
-
腋窩のひだ(axillary fold)が消失
第4期:解凍期(15〜24ヶ月)
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疼痛が徐々に改善
-
こわばりは残るが動きが戻り始める
自然経過:89%は非手術治療で良好な転帰を得る(Levine et al.)
「監督下の放置」が積極的治療に勝った
ここが最も衝撃的なデータです。
Diercks & Stevens(2004)の研究:
-
A群: 監督下の放置(疼痛のない範囲での運動 + 患者教育のみ)
-
B群: 積極的理学療法(強いストレッチング・モビライゼーション)
2年後の結果:
A群 89%がConstant score(肩機能スコア)≥80点を達成
B群 64%のみ達成
積極的にやった方が負けた。
なぜか?
炎症期(第1・2期)に強い負荷をかけると、
炎症が悪化し回復が遅れるからです。
「痛みを無視してガンガン動かす」は禁忌。
「組織刺激性レベル」で治療を変える
これがガイドラインの核心です。
今、自分の肩の炎症レベルを3段階に分類し、それに合わせた治療を選ぶ。
高刺激性(夜中も痛い・痛みが7点以上)
・夜間痛:毎晩・持続的
・痛みのタイミング: 動かす前から痛い
・能動 vs 受動ROM : 能動的可動域が著明に少ない
治療の基本:
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温熱・TENS(痛み緩和)
-
低強度のゆっくりしたモビライゼーションのみ
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疼痛のない範囲でのみ動かす(振り子運動など)
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積極的なストレッチング禁止
中等度刺激性(夜間痛が時々・痛みが4〜6点)
治療の基本:
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超音波療法・電気刺激
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中強度のモビライゼーション
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軽度のエンドレンジストレッチング
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神経筋再教育・肩甲骨安定化
低刺激性(夜間痛なし・痛みが3点以下)
治療の基本:
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積極的な最終域モビライゼーション
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本格的なストレッチング(ドアフレームストレッチ、スリーパーストレッチ等)
-
漸進的筋力強化
-
スポーツ・職業特有の高要求活動へ
コルチコステロイド注射:使うなら早期に【グレードA】
ステロイド注射は有効です。ただし条件があります。
有効な使い方:
-
初期(第1・2期)の疼痛が強い時
-
注射後4〜6週間以内に理学療法を開始する
-
理学療法との組み合わせで効果が出る
Carette et al.の大規模RCT(n=93):
コルチコステロイド + 理学療法 > 理学療法単独(6週後の改善量で)
注意事項:
-
繰り返し注射は腱・軟骨を傷める
-
糖尿病患者は血糖が1〜3日上昇することがある
-
長期的(12ヶ月後)には群間差がなくなる
注射は「初期の炎症を抑えて理学療法を始めやすくするための手助け」
として使います。
正しい診断:「カプスラーパターン」を確認する
五十肩の診断基準を知っておきましょう。
ルールイン(これがあれば五十肩を強く疑う):
-
年齢 40〜65歳
-
外傷なく徐々に発症し、進行性に悪化
-
睡眠・整容・更衣・リーチングが疼痛で制限される
-
受動的ROMが複数方向で制限(外旋が最も制限)
-
内転位での外旋が健側比50%未満 または 30°未満
-
外転45°→90°への移動で外旋・内旋ROMが低下
-
全方向の関節グライドが制限される
ルールアウト(これがあれば別の診断を考える):
-
受動的ROMが正常 → 腱板腱症?
-
X線で関節炎の変化 → 変形性肩関節症?
-
神経症状(しびれ・放散痛)→ 頸椎神経根症?
リスク因子:これに当てはまる人は早期に疑う
| リスク因子 | リスク比 |
| 甲状腺疾患(女性) | 7.3倍 |
| 糖尿病(男性) | 5.9倍 |
| 糖尿病(女性) | 5.0倍 |
| 甲状腺疾患(男性) | 2.6倍 |
糖尿病・甲状腺疾患がある患者の肩痛は、
五十肩の可能性を真っ先に考えてください。
アウトカム評価:数字で追跡する
「なんとなく良くなった気がする」は危険。数字で追跡します。
| 指標 | MCID(改善と判定する最小変化) | 特徴 |
| DASH | 10.2点 | 上肢全体の機能評価。0〜100点(高得点=高障害) |
| ASES | 6.4点 | 0〜100点(高得点=良好機能) |
| SPADI | 8.0〜13.1点 | 疼痛+障害の2本立て |
MCIDを超えた改善があれば「臨床的に意義のある改善」。
これを基準に治療計画を評価します。
「3〜6ヶ月で改善しなければ手術を検討」
標準的な理学療法(+必要に応じてステロイド注射)を3〜6ヶ月続けて
改善が得られない場合。
その時の選択肢:
-
MUA(麻酔下授動術): 全身麻酔下で肩を強制的に動かす。関節包の瘢痕を破砕
-
関節鏡下関節包切開術: 関節鏡で直接関節包を切開
両者の手術後は、術後24〜48時間以内から積極的な理学療法を
開始することが必須です。
手術で得たROMを維持・拡大するのが術後リハビリの目的です。
臨床への応用
理学療法士・医療従事者が現場で今日から使えるポイントです。
1. ステージを確認してから治療強度を決める
「五十肩だから積極的にストレッチ」は間違い。まず今が第何期で、組織刺激性が高い・中・低のどれかを判断する。高刺激性に強いモビライゼーションは禁忌。
2. 糖尿病・甲状腺疾患の既往を必ず確認する
問診で全身疾患を確認。これらがあれば二次性(続発性)五十肩のリスクが著明に高い。治療が難渋することも多く、経過を慎重に見守る。
3. HEPの遵守が何より大切
研究が示している重要な事実:関節モビライゼーションの頻度よりも、患者のホームエクササイズ遵守の方が転帰に影響する。
患者に「何をするか」だけでなく「なぜするか」「どこまでやっていいか(疼痛の判断基準)」を丁寧に教育することが最重要。
4. 「24時間ルール」を患者に教える
運動後24時間以内に症状が元に戻る範囲が適切な負荷。24時間後に症状が悪化していたら強度を下げるよう指導する。これを「疼痛モニタリング」として患者が自己管理できるようにする。
5. 外旋測定を標準化する
内転位での外旋(肘を体側に付けた状態)が診断の鍵。傾斜計で測定し、健側との比較と経時的な変化を数値で追跡する。「なんとなく上がるようになった」ではなく、数字で改善を確認する。
6. コルチコステロイド注射は「入り口」として使う
注射後に「はい、終わり」ではない。注射は炎症を抑えて理学療法を始めやすくするためのツール。4〜6週以内に理学療法を開始する計画を注射前に患者と共有しておく。
まとめ
・89%は非手術で改善するが、ただ待つだけでは最適ではない
・炎症期に強いストレッチは禁忌。むしろ悪化する
・高・中・低を評価し、それに合わせた治療強度を選ぶ
・ステロイド注射は早期+理学療法との組み合わせで有効(グレードA)
・HEP遵守はモビライゼーション頻度より重要
・3〜6ヶ月不応の場合はMUA or 関節鏡手術を検討
五十肩は「診断名ではなく、ステージで治療する」疾患です。
正しいステージ判断と刺激性評価さえできれば、
回復を最短にする治療計画が組めます。
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引用元
Kelley MJ, Shaffer MA, Kuhn JE, Michener LA, Seitz AL, Uhl TL, Godges JJ, McClure PW.
Shoulder Pain and Mobility Deficits: Adhesive Capsulitis.
Clinical Practice Guidelines Linked to the International Classification of Functioning, Disability, and Health from the Orthopaedic Section of the American Physical Therapy Association.
Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy 2013;43(5):A1-A31.
DOI: 10.2519/jospt.2013.0302