背骨の手術をした後、痛みがなかなか引かないことがあります。
実は、その痛み、体の問題だけじゃなくて、
心の中の"考え方"が関係しているって知ってましたか?
今回紹介する研究では、背骨の手術を受けた患者さんが
日常生活でどんな困難を抱えているのか、
そしてその困難に心理的な要因がどう関わっているのか
を徹底的に調査しています。
「手術したのに痛いのはどうして?」とか
「この痛み、どうにかならないの?」と感じている人にとって、
この研究の内容はとても役立つはず。
破局的思考ってなに?
今回の研究で注目されたのが「破局的思考」
という心理的な状態です。
破局的思考って、要するに
「痛みに対してネガティブすぎる考え方」のことです。
具体的には、次の3つに分けられます:
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反芻(はんすう)— 痛みのことが頭から離れなくなる状態。
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無力感— 痛みに対して「もう何もできない…」と思い込んでしまう状態。
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拡大視— 痛みを実際以上にひどいものとして考えてしまう状態。
例えば、「この痛み、ずっと続くんじゃないか?」とか、
「こんなに痛いなんて、歩けなくなるかも…」といった考え方が、
破局的思考の典型です。
この破局的思考が強いと、痛みをより強く感じやすくなり、
さらに動くのが怖くなってしまいます。
その結果、日常生活にどんどん支障が出てくるんですね。
研究の目的
今回の研究の目的はシンプル。
胸腰部脊椎(背骨の下の方)の手術を受けた患者さんが、
手術後にどのような心理的な問題を抱え、
それが日常生活にどう影響しているのかを調べること。
特に、「破局的思考」と「日常生活の困難(ADL障害)」の
関係性に注目しています。
研究のやり方—患者さんに質問!
対象者
研究対象となったのは、2012年から2014年の間に
胸腰椎の手術を受けた患者さん776名の中から、
以下の条件を満たす57名。
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手術後3か月経過時点で痛みが残っている。
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質問に回答できる。
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歩くことができる(重い整形外科的な問題がない)。
測定方法
対象者に以下の質問票に答えてもらっています。
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Pain Catastrophizing Scale (PCS)—破局的思考を測るための質問票。
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13の質問に5段階で回答。
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反芻、無力感、拡大視のスコアを算出。
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Oswestry Disability Index (ODI)—日常生活の困難度を測る質問票。
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歩く、座る、立つなど、具体的な動作の難しさを評価。
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統計解析
PCSとODIの関連性を調べるために、
「スペアマンの順位相関係数」という統計手法を使っています。
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r値:0から1の間の数値で、1に近いほど関連が強いことを示します。
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p値:0.05以下であれば、その関連性が「偶然ではない」と判断します。
結果—破局的思考が痛みを増幅させる?
結果として、以下のようなことが分かりました。
PCSとODIの全体的な関連性
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r=0.597(中程度の相関)。
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p<0.01(統計的に有意)。
破局的思考が高い患者さんほど、
日常生活に大きな支障が出ていることが明らかになりました。
PCSの下位項目ごとの結果
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反芻: r=0.609(最も強い関連)。
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無力感: r=0.504。
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拡大視: r=0.544。
特に「反芻」のスコアが高い患者さんほど、
日常生活の動作が困難になる傾向が強いことが分かりました。
考察—心理のケアが重要!
この研究から分かるのは、背骨の手術後の痛みには
、身体的な問題だけでなく心理的な要因も大きく
関わっているということです。
なぜ破局的思考が問題なのか?
破局的思考が強いと、次のような悪循環に陥ります。
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痛みを過剰に意識する。
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痛みを避けるために動かなくなる。
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動かないことで筋力や体力が低下する。
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日常生活がさらに困難になる。
特に、「反芻」は痛みについて考えすぎてしまう状態なので、
患者さんが痛みを悪化させる行動を避けすぎる結果につながります。
これが活動量の低下や機能障害を引き起こす原因です。
結論—心理のケアも忘れずに
背骨の手術後、痛みや日常生活に困難を感じている患者さんにとって、
身体的な治療だけではなく、心理的なサポートも
重要であることが分かります。
特に、破局的思考を早期に見つけて、
それに対する対策を取ることで、
患者さんの生活の質を大きく改善できる可能性があります。
痛みを和らげるための心理的なアプローチ、
例えば認知行動療法などが有効かもしれません。
心理と身体の両面から患者さんを支えることで、
本当に意味のあるリハビリや治療が行えるわけです。
タイトル:
胸腰部脊椎疾患術後患者における日常生活活動障害と破局的思考の関連性
発表情報:
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第50回日本理学療法学術大会(東京)
著者:
大坂祐樹ら