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事故で脳を傷めた。慢性期でも、注意機能は回復できる。8週間の自宅訓練が証明したこと。

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交通事故や転倒で脳を損傷した人の多くが、
「注意が続かない」という問題を抱えています。

複数のことを同時にできない。
話を聞きながら別の作業ができない。
集中が切れやすい。

これが注意障害です。

多くのリハビリは急性期・回復期に集中しており、
慢性期(受傷から6ヶ月以上)になると「もうこれ以上は改善しない」
と思われがちです。

筑波大学・筑波記念病院の研究チームが2008年に発表したこの論文、
その常識を覆します。

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結論から言います

慢性期の外傷性脳損傷患者でも、8週間の集中的な自宅訓練で
注意機能は有意に改善する。

しかも、受傷からの経過年数に関係なく。


研究の概要

対象は筑波記念病院高次脳機能外来を受診した、
外傷性脳損傷(TBI)患者15名

| 項目 | データ |

| 性別 | 男性12名、女性3名 |
| 平均年齢 | 34.7歳(SD 12.8) |
| 受傷からの平均経過期間 | 5.6年(SD 4.9) |
| 最長経過期間 | 17年7ヶ月(症例11) |

全員が発症から6ヶ月以上の慢性期
CT・SPECTで脳損傷が確認されており、
全員が初診時に認知機能障害を呈していました。

つまり、「もう十分時間が経ったから改善しないのでは」
と思われるような対象者たちです。


何をやったか

毎日30分、週5日。

2種類の練習帳を使って自宅で訓練を続けました。

視覚性注意:「見る注意力の練習帳」
探索課題・抹消課題・視覚的走査課題など

聴覚性注意:「聞く注意力の練習帳」
テープの内容を聞いて書き取る課題など

週1回外来に来て、セラピストにチェックしてもらい、
翌週の課題をもらう。これを8週間繰り返しました。

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どう変わったか

Digit Span(数唱):統計的に有意な改善

Digit Spanは注意と即時記憶容量を測定する最も基本的な検査です。
「3-7-4」と言われて即座に繰り返す(順唱)、
または逆から言う(逆唱)テストです。

| 評価時点 | 順唱 | 逆唱 |

| 介入前 | 平均5.4桁 | 平均2.9桁 |
| 8週後 | 有意に向上(*p<0.05) | 有意に向上(*p<0.05) |
| 6ヶ月後 | やや低下 | やや低下 |

8週間で有意に向上。
ただし訓練を終了した半年後には得点がやや下降しました。
これは「継続」の重要性を示しています。

仮名ひろいテスト・SDMT・PASAT

こちらは統計的に有意とはいえないものの、
介入4週後から得点の上昇傾向が認められました。

社会復帰の結果

| 転帰 | 人数 |

| 復学 | 1名 |
| 高次脳機能障害専門デイケアへ移行 | 9名 |

15名中14名が8週間のプログラムを完了。
これだけでも意義があります。


なぜ注意機能が大事なのか

注意機能は、他のすべての認知機能の「入口」です。

注意が機能しなければ、情報が入ってこない。
入らなければ、記憶も思考も遂行機能も機能しない。

だから注意機能の改善は、認知リハ全体の基盤となります。

Digit Span(即時記憶)が改善したということは、
「数秒の情報を一時保持する力」が戻ったということ。
これは日常会話・仕事・学習のすべての基礎になります。


受傷から何年経っていても関係なかった

本研究で重要なのは、
受傷からの経過期間と訓練効果の間に交互作用が認められなかった
という点です。

つまり、受傷後1年でも10年でも、訓練をすれば同様の改善が期待できる
可能性があります。

症例11は受傷後17年7ヶ月で介入を開始しています。
それでも改善が見られました。


臨床への応用

1. 慢性期TBI患者に対してもリハを諦めない

「時間が経ちすぎた」は禁句です。本研究が示したのは、
慢性期であっても集中的な訓練で改善が得られるという事実です。

2. 「在宅でできる」訓練の設計が重要

慢性期患者に入院集中リハができる施設はほぼありません。
外来指導+自宅学習というハイブリッドモデルが現実的かつ有効です。

3. 仮名ひろいテストは効果測定の指標になる

本研究では仮名ひろいテストを視覚性注意の評価指標として使用しています。在宅訓練の効果を外来で確認する「物差し」として使える検査です。

4. 訓練終了後のスコア低下に注意

Digit Spanは8週間で向上したが、6ヶ月後には低下。
これは「訓練を続けなければ維持できない」ことを意味します。
デイケアへの移行はその観点からも合理的な判断です。

5. 病識低下への対応が必要

TBI患者は病識が低下しやすく、通院やリハが続かないケースが多い。
家族を含めた指導、外来での継続的なフォローが実現の鍵になります。


まとめ

  • 外傷性脳損傷後の注意障害は慢性期でも訓練で改善できる

  • 受傷からの経過期間に関わらず、8週間の集中的自宅訓練でDigit Spanが有意に改善(p<0.05)

  • 訓練には視覚性・聴覚性の練習帳(1日30分)を使用し、週1回外来でフォロー

  • 注意機能は他のすべての認知機能の基盤であり、その改善は社会復帰への重要な足がかり

  • ただし訓練終了後はスコアが低下するため、継続的な訓練の場(デイケアなど)が必要

慢性期だから仕方ない。その考え方を、このデータは否定しています。

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引用元(論文情報)

タイトル: 注意障害を呈する外傷性脳損傷患者に対する自宅学習指導の試み

英題: An attempt of the cognitive rehabilitation home exercises for the patients with chronic traumatic brain injury

著者: 池嶋千秋、山里道彦、小谷泉、朝田隆

掲載誌: 認知リハビリテーション 2008(JCLS 88002-685)

所属: 筑波大学大学院人間総合科学研究科/筑波記念病院神経精神科

研究デザイン: 単群前後比較研究(対照群なし)

対象: 慢性期外傷性脳損傷患者15名(平均年齢34.7歳、平均受傷後経過5.6年)

介入: 視覚性・聴覚性注意練習帳を用いた8週間の自宅訓練(週1回外来指導)


本記事は上記論文を元に、一般向けに要約・解説したものです。医療行為の根拠として単独で使用することは推奨しません。